アドニスたちの庭にて
 “青葉祭”

              〜とあるガッコの裏事情

 


 元を辿れば、まったくの自業自得。けれど、そんな結論は誰だって認めたくはないし、彼の場合は特に、そういう…みっともないことの極致だろう“完全敗北”だなんて、生まれてこの方、一度だって自分へと引き取って忍耐を養った覚えなぞなかったから。何か別なところに理由を探そうとしていた。本当だったら今頃は、快気炎の上げっ放し。景気が良すぎての怖いものなしで、この世の春を謳歌していた筈だった。だからこそ尚更に、腹の虫が収まらず、そんな状況が自業自得だなんて絶対に認めたくはない。
“何でなんだよっ。”
 事の起こり、自分のドリームロードがこうまで崩壊した切っ掛けは、彼自身が調子づき、ついついのご乱行が過ぎたから。あれは年末の賑わいが夜中でも目映かった夜更けのタマリ。馴染みのクラブで引っかけた、どう見たって同じ年くれぇのケバいオンナとイキトーゴーして。個室に連れ込み、そのまま突っ込もうとしたら、金をくれなんて言い出しやがって。ナメてんじゃねぇぞ・アァッ?! つって怒鳴ったら、その途端に…凄げぇ手際良く少年課のマッポが“どかどかどかっ”て一斉突入。女はどさくさに紛れてどっかに消えて、だから“婦女暴行未遂”ってのは免れられる、未成年の飲酒は本人じゃなく店が罰せられるんだし、せいぜい“ホゴカン”くれぇかなって、あぁあ やっちまったな、まあこれで ちったぁ箔がつくかなんて見積もってたら。関係ないだろっていうよな、余罪?っていうのが、どかどか積み上げられちまって。何だよそれ、話がおかしいじゃねぇか・オラァ!って凄んだのがまた、更なる不興を買ったらしくって。反省の色なしってオマケつきで家裁に送られ、繁華街での乱闘騒ぎやまだ無免許だったバイクでの暴走行為などなどと、悪質でしかも再犯性の恐れも大きく、刑事事件としての何とかかんとかって、差し当たりだか差し戻しだか、ごちゃごちゃ長引いてるうちに、気がついたら…季節は春になっており。矯正のための監察施設送りという“判決?”が降りたことで、彼は桜並木のきれいな中、高い塀と鉄の柵に囲まれた四角い建物へ移送され、そこでしばらくほど世間から離れて暮らすことと相成って。そうして彼は、はやばやと内定が取れていた“とある高校”にも入学出来ないまま、ほぼ1年間をそこで過ごす羽目となったのだった。







            ◇



 最低でも保護監察止まりにして見せるなんて偉そうに言ってた弁護士は、
『いやぁ、凶悪な少年犯罪が立て続いてた時期と重なったからねぇ。』
 しみったれた痩せぎすな顔を引きつらせ、愛想笑いを何とか振り絞ってそうと言い訳し、あたふたとどっかへ雲隠れ。そらそうだわな。俺のバックにゃ、とある組織…ってのもオーバーだけど、結構大きな“そっち系”の後ろ盾がついていた。高校への内定だって、親がかりなんてもんじゃなく、そっちの筋からの引き合いで取れてた代物。表向きは公立高校に入れて、しかも、先々でも羽振り良く過ごせるだろう、そんな第一歩となる大舞台だった筈なのによ。のっけから躓いてどーすんだよと、自分の運のなさを呪ったもんだ。そんでもまあ、ほんの一年。ダブりってのもまた、年齢は先輩なんだから目下ばっかの環境、体育会系のガッコなら、それを盾にすりゃ結構手早く牛耳れっかもなと、あくまでも前向き、夢見がちな構想を立てて。世話んなった兄さんに、
『すんません、パクられてました』
 施設から出て早々に報告に行ったらば、まあ…大変だったみてぇだなと労(ねぎら)われ、ガッコへの進学は約束通り手ぇ回してやっからと、
『頑張れな』
 なんて言われて背中をどやされた。ああ期待されてるなって、施設行ったことで見込まれたんかなって思いつつ、やっとのことで待ってましたの高校へ入学。………言っとくが、俺は別に、何かしらのスポーツに汗臭くも熱くなってた訳じゃねぇ。勿論のこと、勉強がしたくてしたくて入学を心待ちにしてた訳でもねぇ。ここいらの縄張りを一手に押さえて、此処でのさばってる連中からのアガリを兄さんへ上納する“ツナギ”の、その責任者たる“アタマ”の座を、先代から引き受けることになってたんだよ。ここいらはお高くとまった“ハイソ”とかいう連中が通うガッコがあるせいか、そのアガリが結構な額になんだそうで。おいおい、ただのカツアゲの話だけじゃあないんだぜ? 政財界の大物の偉いさんたちが余興でって楽しむ“トトカルチョ”ってのに絡んだ“仕事”もある。あすこのガッコの行事に大枚張るってお遊びが、十何年も前からあんだとよ。胴元は必ず儲かる、損をしねぇのは当たり前だがよ。贔屓筋の大物さんに“良い目”が出るよう、ちょいと揺すぶっての小細工なんてのを仕掛けるのが俺らの担当で。なに、いいトコの坊ちゃん揃いだから苦もない仕事。エリート面した連中をビビらせて泣かせて、言うこと聞かせて。しかも金んなるなんて、美味しいこと請け合いだぜと、俺に声を掛けてくれた“先代”のアタマがどんだけ美味い話かを語ってくれた訳よ。………で、普通は1年任期で、在校生ん中から次のって引き継いでくんだが、一昨年は恐持てしそうなのが学内に全然いなかったらしくてな。妙にスポーツイベントが盛り上がってた年だったからかも知れねぇが。そんなせいで、まだ中坊ながら、繁華街で幅ァ利かせてた俺へ白羽の矢が立ったんだが…思いも拠らねぇ騒ぎが勃発しちまって。そいで1年のブランクが空いたって訳だ。まま、誰ぞが代理をやってるか、先代が学外から手ぇ出して続けてるかのどっちかかなって思ってよ。そいで先代んヤサ行ったら、何か渋い顔されて。景気が悪い顔だねぇなんてお茶らかしたら、お前がドジ踏みやがったからだと言い返されて、それから。

  『あのガッコにはもう、そのシステムは失くなっちまってんだよ。』

 組の兄さんがお前を励ましたってのは、元に戻してくれんじゃねぇかってのを期待してのことだろう。俺なんざ、もう卒業した身だってのに、半年ほどのずっと“ちゃんと引き継ぎしとかねぇからだ”なんてな厭味の言われっぱなしだったがな。手が欲しいだの、ビビらす盾に名前を出してぇのってことへは、ある程度は助けてもくれようが、そんでも限界あるってか。そんくらいのフォローで修復すんのは難しいと思うぜ? なんしろ、アタマに直結してたシステムが今は完全に崩壊しちまってる。これまではそれをまんま引き継いでた。これからはこいつがアタマだ、こいつの下で よぉ働けやで済んでた。だが、それが今は一切ないんだ。お前が自分で一から積み上げ直すってんなら話は別だが、そうでないなら、中堅辺りからにせよ、強い奴らとタイマンで張っての制覇ってのを、一からやらにゃあなんね。………そんな風に懇々と語られてよ。

  ――― はあ? それって、どこの少年格闘マンガの話ですかぁ?

 何だよ、この人、逝
っちゃってんのかよって。仕切ってる奴が商品に手ぇ出したんかな? 合成ドラッグも最近のはトリップ凄いっていうから、ほどほどにしとかないとなんて、半分笑いながら言ったらよ。凄んげぇ老けたおっさんみたく、渋い顔んなって、

  『信じられねぇのは判るがな。
   俺だって、去年の今頃は、今のお前みたいな心持ちでいたからよ。』

 俺の次を取ろうって奴がすぐ次の学年に居なかったのは、まあ“シラケた奴ら”が多かったってのか、たまたま間が悪かったってだけなんだろが。もしかしたら…お前がパクられた一件は、どっかの誰かが手回しした結果なのかも知んねぇ。最近は未成年ってお守りが利かないったって、あれっくらいで“ホゴカン”すっ飛ばしていきなりの実刑もどきってのは重すぎる。それに、いくら抜群に強い奴らが新しい“仕切り”にって立ったからったって、たった1年でこうまで様変わりするもんじゃねぇって。

  『悪いことは言わねぇ。こりゃあS級の面倒ごとだ。
   そんでも励みたいなら好きに働きゃあいいが、
   そうでないなら…下手に手出しはしねぇ方がいいぜ?』

 またまたパクられたかねぇだろう? そうと言って、それから後は二度と会う機会もないまんまだ。きっとどっかで“ほれ見たことか”って笑ってんのかもな。お前らみたく学外の連中はまだ繋ぎも取りやすかったけどよ、肝心な学内の方の統率はてんでダメでよ。育ちの良いお坊ちゃんたちは行動範囲が限られてっから、目ぇつけるにせよ弱み握るにせよ、せめて駅前の繁華街なんぞで捕まえにゃ話にならん。俺はサツに顔が割れてっから判りやすい騒ぎを起こす訳にもいかねぇしよ。届け出られたらあっさりと辿り着かれっちまうからな。そんでどうしても、面が割れてねぇ“手足”が要りようで。そういうのに良さげな奴をっての、まずはの使いっぱに集めようとし始めた。ヘタレすぎてちゃあ肝心なカツアゲさえ出来ねぇから、それなり凄めて、でもよ、自分より強いもんへは気の弱そうな、要領の良さげな奴っての? ウチはほれ、一応は…公立ながらも“スポーツ奨励校”で。そういう“汗と根性の青春”ってとっからの落ちこぼれ、地方からスカウトされて来たのにレギュラー争いから脱落したっていうような奴が、毎年のように結構いてな。ガタイも出来てるし、プライドがそこそこ高いから火も点けやすい。俺には敵わねぇが他へは通用するって格好で喧嘩や荒ごとへ馴れさすんは簡単なことだから、適当なのに目ぇつけて、適当にビビらせて。金ぇ集めて持って来いって煽ってやったら、

  『お前か? ダブりの一年で、暇ァ持て余してる奴ってのはよ。』

 即日出て気やがったんが あいつだった。去年度のたった一年で、いや、聞いた話じゃ最初の1カ月ほどで。あの、何代にも渡って練り上げられてた仕組みをあっさりと踏みにじり、自分らの存在をまんま法律代わりにして。喧嘩のゲンコだけで、ガッコ全部をきっちり仕切っちまったっていう、クソ生意気な野郎がよ。

  『フツーの生徒に食いつかねぇトコは大したもんだって思ってたがよ、
   ちょっと怖げな連中へ“金集めて来い”は不味いんじゃね?
   お前、今、所謂“謹慎中”なんだろによ。』

 連れらしい二人ほどを連れてたけど、そいつらは手出ししねぇってのがどっちにも判ってるって余裕の態度でいてよ。奴ら、俺へご注進して来たから。それってどういう意味か、分かるよな? 待ってたって“集金”は出来ねぇから、そのつもりで、なんて。スカした物言いしやがって…………っ! ああっ、今思い出してもムカムカすらぁ。誰もいねぇ倉庫裏に呼び出したしたが、実を言や、そいつらを伸してアピールする気でいたから。少しは集めてたダチとか、こっそり呼んであったのによ。あの野郎、そこまで見透かしてやがったんだ。きっと、手を貸すなとか根回ししてたに違いねぇ。どこまでコスイことォしやがるっ。







            ◇



 ウィスキーを炭酸で割ったハイボール。それを何杯か重ねたら、あっさりと舌がなめらかになった“負け犬”は、スレて見せていてもそこはまだまだ未成年の若輩者。つまりは熨されたらしい顛末の口惜しさを思い出したか、そしてその激高が酔いを速めたか。そのままテーブルに突っ伏して寝入ってしまった。
「そっか。そいつってのが“R”のマスターと懇意にしてる、十文字とかいう奴なんだな。」
 話を聞いてやっていた、こちらさんはどうやら他校の人間なのか。年齢的には似たような世代ながら、同じ飲み物にもけろりとしており。傍らに脱いでおいたオリーブ色のジャケットを手にすると、シャープなデザインの札入れを取り出し。酔い潰れてしまった話相手の手元近く、100円ライターを載せた煙草のパッケージの下へ、1万円札を1枚突っ込んでやってから、何事もないという顔で立ち上がる。左右に座していた連れたちもそれを追うように席から立って、
「どうします? こいつを使って仕掛けますか?」
 こそりと片方の青年が訊いて来たが、ゆっくりかぶりを振って見せ、
「小者すぎて足手まといにしかならんだろう。こいつの利用価値はここまでだ。」
 ふふんと笑ったそのまま、切れのいい所作でジャケットを羽織り、薄暗い照明の店内から外へと足を運ぶ。桜の季節も過ぎ去って、昼が随分長くなったとはいえ、もうすっかりと陽も落ちた、夜半という時間帯の繁華街。オリーブ色のジャケットを羽織った青年は、懐ろを探ると小じゃれたパッケージの外国煙草を掴み出し、金色の紙が巻かれたフィルター部を咥え、連れが点けた…カルティエだろうスリムなデザインのライターの炎でその先を炙る。
「十文字とかいう奴が、一体どこの誰に依頼されて動いてやがるのか。名前さえ今判ったような手際の悪さには、正直、キレそうになったがな。」
 ジロリと、自分の左右に付き従っていた“連れ”を睨みつけてから、自分の好き勝手でやってることだと言い張るんならそれも良い。その上で…俺の傘下に入らねぇかと、ちゃんと伝えたのか? 半分くらいは“判っていながら”という雰囲気の訊きようをした青年へ、案の定、怖々と首をすくめて見せた彼らへ…口元をぎゅむと歪めると、
「他の小さい“アガリ”はどうでもいい。白騎士でのイベントを牛耳れてねぇ、あすこを押さえ切れてねえってのだけは、そのまんまにしといちゃあ面子が立たねぇ。」
 あすこ繋がりの伝手は、例えば建設関係の官僚だとか、馬鹿んならねぇトコへも繋がってっからな。判ってっか? こんの世間知らずどもが、と。連れたちをいかにも冷酷そうに細めた眼差しで睨(め)ねつけてから、

  「ま。もちっと頼りんなる連れが、
   その十文字たらいう奴の弱点をチェックしといてくれてるようだから。」

 早速にもそこを突々いてやるべぇと、にんまり笑ったでっぷり膨よかな顔が。ネオンのせいか、随分と不健康で邪悪な顔へと変貌し。連れの二人が見なかったことにしようと顔を背けたほどだった。










          ◇◆◇



 このまま夏に突入かというほどにも気候のいい、ゴールデンウィークも半ばを過ぎて。白騎士学園高等部の春の恒例行事である“青葉祭”もいよいよの佳境。幾種もの球技トーナメントのいずれもが、準々決勝や準決勝へとプログラムを進めており、
『やっぱり負けました〜〜〜。』
 三年のしかもノッポさんばかりを集めたA組の精鋭に、健闘空しく3回戦で敗退したのが、瀬那くんのいた二年のB組、ちみっこチーム。………でもね? だけども、このまま3−Aが決勝戦まで勝ち進んでくれたなら。敗者復活戦で勝ち残った一年のとあるクラスが3位決定戦へ出て来られる。もしも優勝なんかしたりなば、そこで負かされた暫定2位チームとの試合だって出来るとあって。そこに親しい後輩さんがいるセナとしては、一気に“高見さんには勝ち続けてもらわなきゃ態勢”へと大変身。役職に就いてる訳でもないのに“生徒会関係者”扱いのセナだけど、自分が出ていた競技でだけは…個人的な応援をしたって、不公平とか えこひいきとかにはならないからねと。3−Aに割り振られてたチームカラー、水色の応援メガホンを手に、たかたかと体育館までの通路を急ぐ。同じ3−Aの、でも別の種目のゲーム、フットサルの試合を寸前まで観ていたものだから、随分と出遅れていて。観客席はもう満員かもしれないけれど、
“気は心って言うものな。”
 セナくん、それってちょっと譬えが違うような…。


  【気は心;ki ha kokoro】

    大きさはさほどでもないが、込められている真心は一杯。
    量は少ないけれど、我慢してね? 勘弁な?などという時に使う言い回し。


“じゃ、じゃあ、えっとえっと…枯れ木も山のにぎわいとか。”
 どうでしょうかねぇ。それって、つまらないものでも数ありゃ賑やかに見えるって意味だぞ?
“う〜ん、う〜ん。”
 ことわざは苦手だよぉと、もう ほとんど人通りのない石畳の通路を急ぐ。メガホンを取りにと一旦 緑陰館へ立ち寄ったので、こんな道順になってしまった彼であり、
“間に合うかなァ。高見さんのチームってお強いから、あっと言う間に2セット取っちゃうかもだしな。”
 何せ自分たちのチームは、全部のセットを足してもほんの5点しか取れなかったほどだった。全チーム中で一番平均身長が低いと言われながら、それでも一回戦と二回戦は勝ったから、そんなにも弱い編成ではなかった筈なのにネ。急げ急げと頑張るその手から、ストラップみたいになった組み紐の先、メガホンが揺れる。負けちゃったようと悔しい思いが一杯だったけど、
『あしたの試合は応援に行きますから』
 だから頑張って下さいねってそう言ったら、
『じゃあ、ウチのチームのメガホンを用意しておきますね?』
 高見さんがご自分で用意しておいて下さった新品で、提げ紐の先には“セナくんへ”と書かれたタグまでついてたのvv さっきまで観戦していたフットサルはね? 公正を期すためって事で、何でだかセナくんまで応援しちゃダメって言われてたのがちょっと残念で。勝ったから良いようなものの、進さん、頑張れ〜〜っ!って、お口を噤んで胸の中でだけ、そんなお祈りを続けるのは結構な消耗だったから。今度は大声出すんだもんと、何だか妙な方向でも張り切っている模様です。
(笑) 新校舎と旧の特別棟の間を駆け抜けて、体育館へと続く小径の桜並木を真正面に見据えながら急いでいたところへ、

  「ああ、ちょっと。」

 そんな声が掛けられて。え?え? 自分へのお声かな? 他には人影がなかったこともあり、駆け足を緩めて立ち止まれば。傍らの特別棟への出入り口、音楽室と美術室と、それらの準備室がある小さめの校舎の昇降口に立ってた人がいて。あれれぇ? 新任の先生かしら? 制服姿じゃないし、ウチの指定のジャージでもない。ひょろりと背丈のある…でも見たことないお顔の人だ。国体の応援とか、今回のこの青葉祭とかでも、各部の部長さんとかキャプテンさんたちとかとは、結構お顔を合わせているセナだから。こうまで上背があるよな人なら、たいがい覚えている筈なんだけど。
「何ですか?」
 セナは執行部のお手伝いをしていたから、それでの何か用事かなと。あんまり警戒もしないまま、呼び止めたくせに へらりと笑ったまんま、そこから動かないその人へ自分から近づいて行ったところが………。

  ――― ……………えっ?

 小さく、でもくっきりと。パチパチッて、何かが爆
はぜぜるような音が間近でしたので。そっちを振り向きかけたのと、堅いものが背中にゴスッて当たったのがほぼ同時。かいがら骨のとこら辺で、
“何…? これって何?”
 不審だなって想いが言葉になる前に、そこがいきなり熱くなって痛くなって。やだやだって離れようとしたのに、体が動かない。あ、これって電気かも…って判った途端に、目の前が真っ暗になったの。

  「あ〜あ、あんまり手荒なことはしたくなかったのにな。」
  「何、呑気なこと言ってんですよっ。」
  「騒がれたり、人に見られたら、何にもならないんですからねっ。」

 誰かが腕や肩、脚まで抱え上げてくれてて。それで倒れなかったんだなって、ふわりと総身が浮いたところで、セナの意識が完全に途切れた。だから、

  「さあ急ぎましょう。室
むろさんがお待ちですよ。」
  「ああ、待って。肝心な“伝言”をしていかなきゃね。」

 そうと言ったのが、セナへ声をかけて来た青年で、セナの着ていた運動着のポケットをまさぐると、ハンカチや、カード類しか入ってなさげな財布は戻して、携帯電話をその手に握る。そんあされてたのも全然判らなかった。
「ん〜〜〜っと。………何だ? 十文字とやらのメアド、メモリーにないぞ?」
 しょうがないなァと肩をすくめ、自分の携帯を取り出して、メモから呼び出した番号をわざわざセナの携帯へ打ち込むと、何やらピピピッと手早く文章を打ち、

  「これでよしっと。」

 待たせたね、行こうかと。にへらと笑ったその青年を先頭に。一見、貧血でも起こしたお友達を運んでいるかのような小芝居を打ちつつ、傍らの校舎の中へと入っていった面々は。よほどに焦っていたらしく、その場に…セナが提げていた水色のメガホンをしっかりと落としたままだった。





   〜Fine〜  05.8.16.


  *う〜〜〜。
   2ヶ月も間が空いてました、すみません。
   でもでも、こっちも、一気に畳まないと不味いような話に入っておりますゆえ、
   同じような展開の、例のFTとの二本立ては、ちょっちキツかったということで。

  *今回は水町くんと筧くんの出番もありませなんだですね。
   その代わりにむさくるしい人登場で。
   …馬鹿の一つ覚えみたいに、悪役が同じ人ですいません。
   何てのか、アイシーって、
   今のところは彼くらいしか、心底憎めるキャラがいないので。
(おいおい)
   それを言ったら阿含さんの言動だって、
   今のところは立派に
(?)到底“いい人”とは思えないレベルなんですが、
   彼は別の話で、気の良いお兄さんとして出てもらってますんで、はい。

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